
2024年の第171回芥川賞受賞の純文学山岳小説(本の帯より)です。
舞台は神戸の六甲山です。ですから芦屋川から有馬へ抜けるハイキング、黒岩谷西尾根、西山谷、天狗岩、六甲山上ケーブル駅など、関西で山を登っている方なら馴染みのある地名が一つは出てくるのではないでしょうか。
「なんか、わかるなあ」と主人公に共感しつつ、160ページですので一気に読むことができます。
「バリ山行」とはバリエーション山行のこと。当然一般登山道をたどるものではありません。沢登りや岩登りルートの事を指すのかなと思っていたら、この本では地図上で大体の尾根や沢筋のルートを頭の中に入れて行き、その場に応じて持っている装備を駆使して突破して行くことのようです。藪の中であろうとザレた斜面だろうと、落ち葉が積もったトラバースであろうと…
主人公は建物の外装修繕会社に途中入社してきた男性で会社のリクリエーションとして登山会に参加します。徐々に山にハマっていきますが、会社の業績不振が重くのしかかってきます。そんな中、会社でも浮いている存在の同僚が「バリ山行」をしていると聞き同行させてもらいます…
「バリやっとんや、あいつ」単独行は批判されるよな
「ある意味でバリエーションっていうのが一番本来の山登りに近いのかもね。登山っていうのはちゃんと整備された道を、ある意味で僕らは歩かされているんですよ」にはフムフム…
「確かなもの、間違いないものってさ、目の前の崖の手掛かりとか足掛かり、もうそれだけ。それにどう対処するか。これは本物」生きることが実感できる…それが山
「だからさ、やっぱりこれはバリじゃないんだよ」言わなくもいいのに…
岩登りや冬山を登っている時、下界の何もかも忘れて、ただ生きるためだけに心身を集中していることがあります。バリ山行ではそういうヒリヒリした感覚を体験できるのです。
山の中で自分自身と対峙する描写もさることながら、会社の業績不振に直面し主人公や同僚が動揺する描写や、主人公が山にハマっていくのに反比例して妻が不機嫌になっていく様子がリアルだと思いました(笑)。
登山を趣味とする方なら面白く読めるのではないでしょうか。私は楽しく一気に読むことができました。
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