薬師岳 黒部を見下ろす花咲く雄大な山

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薬師岳 太郎平小屋が見える
薬師岳 太郎平小屋が見える

 北アルプスの薬師岳は標高2,926m。日本百名山で深田久弥は薬師岳の章の冒頭「白馬や槍のような流行の山ではないが、その重量感のあるドッシリした山容は、北アルプス中随一である。ただのっそりと大きいだけではない。厳とした気品もそなえている。」と讃えています。

 さて、薬師岳をどう登るか?

 黒部周辺の山々は山深く魅力的な山がたくさんあって2泊や3泊はかかりそう。このうえ薬師岳に登るとさらに一日…。他の山も同時に登れないか、いろいろ考えましたが、週末2日だけとなると…あまり欲張らずに結局シンプルにピストンすることにしました。2024年8月の山行です。

 今回も自家用車が使えませんので公共交通機関でのアプローチとなります。

 当初は土曜未明に大阪を出て有峰口からバスに乗り11時半ごろに折立に着、翌日に薬師岳アタックして12時半の折立発のバスに乗るというかなり慌ただしい計画でした。

 しかし金曜の夜行バスと土曜の富山発早朝バスのキャンセルが出ているのを木曜の夕方に見つけ、このチャンスを逃してなるものかと慌てて(胸をドキドキさせながら)予約しました。ある意味ここが一番の核心だったかもしれません(笑)。

 計画はもちろん変更し、一日目に折立から薬師岳の山頂に立って太郎平のキャンプ場で一泊し、翌日ゆっくり下山して12時半の地鉄バスで富山へ戻るというものです。

折立登山口
バスを降りて、折立登山口を8時35分に出発!

 折立には午前8時半ごろに到着しました。学生の時以来ですからほぼ40年ぶりの再訪ですが、変わったような変わらないような。きれいなキャンプ場があったけど覚えがない…
 用意をして樹林帯の中の山道をずんずん登っていきます。1時間ほど歩くと尾根上に上がり「アラレちゃん展望台」。なぜアラレちゃんなのか、はてな?

薬師岳のアラレちゃん展望所
アラレちゃん展望所
薬師岳のアラレちゃん展望所にある「アラレちゃん」
「ほよ〜」なぜアラレちゃん?

 ここからは緩やかな尾根をどんどん進んでいくことができます。石畳の道がはるか遠くまで続いているのを見ると「折立の道だなー」という気になります。

薬師岳のアキノキリンソウ
薬師岳のアキノキリンソウ

 振り返ると有峰湖がだいぶ下に見えました。

折立から太郎平小屋へ 階段が続く
折立から太郎平小屋へ 階段が続く
薬師岳 折立から登る 振り返ると有峰湖が見える
振り返ると有峰湖が見える

 道の両側には高山植物の保護のためにネットが張られ保護がなされています。あらためて写真を見てますと道の両側に草が生えない部分が両サイドにありますが、これがそうです。保護とその再生は時間がかかりますが、破壊はあっという間だったのでしょう。自戒も込めて…


 オーバーツーリズムは外国人とかいまに始まったものではないのですな。

登山道沿いに高山植物保護のゾーンが設けられている
登山道沿いに高山植物保護のゾーンが設けられている ちょっと痛々しい…

 稜線上にはガスがかかっていて頂上を見ることはできないので、黙々と登っていきますと、チングルマが種が道のわきに咲き乱れていました。写真をとっていますと、ほかの方も「すごいですね」と喜んでおりました。

薬師岳 チングルマの種
チングルマの種

 太郎平小屋には11時50分ごろに着きました。いいペースです。この分だと今日中に頂上に立てそうです。

薬師岳 太郎平小屋が見えた
太郎平小屋が見えた!

 お昼時とあってたくさんの方がご飯を食べたり休憩したりしています。(自分ひとりが)先を急いでいるのでテント泊(1,500円)の手続きを済ませ、薬師峠のキャンプ場へ。

夏山で賑わう太郎平小屋
夏山シーズン 賑わう太郎平小屋
薬師峠への木道 ガスが晴れて来た
薬師峠への木道 ガスが晴れて来た
薬師峠のキャンプ場が見える
薬師峠のキャンプ場が見える

 すでに多くのテントが張られています。現地に行くと「意外と平地が少ないな」と思いましたが、手早くテントを張って、雨具と水分と行動食をもって12時半に薬師岳へ向けて出発します。途中で槍ヶ岳の穂先が見えて「槍が見えますよ」と行き交う人が誰ともなく教えあっていました。

 最初は樹林の中を沢沿いに登ります。帰りにここの水を飲んだら、冷たくて最高においしかったです。

薬師平へ 涸れ沢を登る
薬師平へ 涸れ沢を登る

 枯れた沢状のところから薬師平に上がり、広大なカールを望むところに来ると、もうお花畑が真っ盛りです。

薬師岳 ウサギギク
ウサギギク
ミヤマリンドウ
ミヤマリンドウ
薬師岳登山 雲間に槍ヶ岳が見えた
雲間に槍ヶ岳が見えた

 チングルマの白い花がここでは咲き乱れていて、ハクサンイチゲやハクサンフウロが華を添えます。ここのところ東北の焼石岳に行ったりして目が肥えているはずですが、花を目の前にすると気持ちがグンとあがってしまって写真を撮りまくりました。

薬師岳 ハクサンフウロ
ハクサンフウロ
薬師岳 チングルマのお花畑
チングルマのお花畑
薬師岳 イワイチョウ
イワイチョウ
薬師岳登山 チングルマのお花畑
もう一度チングルマのお花畑

 この頃になるとガスが晴れたり曇ったりを繰り返しています。ガスの切れ間に稜線上の小さな小屋のようなものが見えます。右手に延びているのは東南尾根でしょう。

薬師岳山荘
薬師岳山荘

 薬師岳の東南尾根では愛知大学山岳部が1963年1月に方向を見失って部員13人が遭難死し、社会的に大きな衝撃を与えました(と思う)。というのも、京大元山岳部で朝日新聞記者だった本多勝一氏がヘリコプターで現地入りし、「太郎小屋に生存者なし」をスクープするなどマスコミの取材がエスカレートしていたようです。

 薬師岳小屋からこの避難小屋までのザレ場が足場が悪く一番めげそうになりましたが、時間にすれば20〜30分です。

薬師岳避難小屋へのザレ場
薬師岳避難小屋へのザレ場 ここは疲れた
薬師岳登山 避難小屋
薬師岳避難小屋
薬師岳東南尾根に迷わないように 看板
薬師岳東南尾根に迷わないように 看板
薬師岳東南尾根は「×」だらけ
薬師岳東南尾根は「×」だらけ

 稜線上に立つと薬師岳のカールの向こうに黒部の山々、後立山、裏銀座の山々が見えます。

薬師岳の圏谷群
薬師岳の圏谷 黒部川を見下ろし、その向こうは赤牛岳方面

 何度も言いますがこの辺の山は日数がかかります。通好みでは赤牛の読売新道なんて行けたら充実するだろうな。黒部の上の廊下も途中敗退で課題としたままだし。沢を登っている頃は「ピークなんてどうでもいい」なんて思っていたけれど、それは「いつでも登れるから」だったのだ。この年になると「今を逃すと登れない」の焦りにも似た思いに駆り立てられる(笑)。

薬師岳の稜線
薬師岳の稜線
薬師岳 三角のフォルムだ
薬師岳 三角のフォルムだ

 頂上へは「まだ遠いな」と思いましたが、20分ほどで着くことができました。

薬師岳の頂上
薬師岳の頂上

 頂上ではイワヒバリが近くまで寄ってきてくれました。

薬師岳 イワヒバリ
イワヒバリ

 時刻は14時半です。コースタイム通りだと16時過ぎに到着予定でしたのでもう大丈夫。行動食に持ってきたボロボロに砕けた「ムーンライト」を食べて人心地つくと「さあ下山だ」

ヨツバシオガマ 薬師平
薬師平のヨツバシオガマ

 キャンプ場には16時過ぎに到着し、ビールを購入(800円)してひとり乾杯。柿の種をあてに、景色を見ながらゆっくり飲みます。持参した焼酎になって、カレーとオニオンスープを食して食事終了。

薬師峠の太郎平キャンプ場で ビールで乾杯
薬師峠の太郎平キャンプ場で ビールで乾杯

 水が豊富でトイレもきれいで言うことなしです。こんなところだったっけ?
 夜はラジオをつけてみたら、大阪の毎日放送が受信でき、しばらく野球を聞いて眠りにつきました。ラジオもFM化が進み、AM波が停波することになると、大阪のラジオ局を信州で聞くということはできなくなるでしょうね。

薬師岳 太郎平小屋が見える
薬師岳 太郎平小屋が見える
右端に剱岳 真ん中に弥陀ヶ原 
右端に剱岳 真ん中に弥陀ヶ原 

 翌日は12時半のバスに乗るだけなので、二度寝したり、お茶を2回も沸かしたりして、自分史上覚えのないくらいのゆっくり出発で6時半に出て太郎山に登り、ゆっくり下山して、途中で剱岳を見て「オー」と声を出して「しばらく行ってないなー」なんて生意気な感想を思い、それでも10時40分ほどには折立に着いてしまいました。あとはテントを干したりして時間をつぶしました。

 自動販売機があってペットボトルの飲料水がよく売れていましたが、ゴミ箱はクマが寄り付かないように最近撤去されたそうです。クマと人間のせめぎ合いがここでも繰り広げられていますね。

太郎平から見る雲の平。槍が見える
太郎平から見る雲の平。槍が見える

 太郎平や折立に初めて来たのは大学1年の合宿終了後の沢登りでした。室堂から五色が原を越えて平の渡しから奥黒部ヒュッテへ渡り、東沢を詰めあがって黒部の源流に降りて赤木沢を登って北の股岳経由で折立に下山したのです。

 あれから40年近く。2週間前の蝶ヶ岳もそうでしたが、北アルプスへ来るとどこかしら過去の自分と向き合う場面があります。今もこうして登っているとは思わなかったでしょうね。

富山駅の魚どん亭 刺身定食
富山駅の魚どん亭 刺身定食

■北アルプス・薬師岳 2024/8/3-4
1.折立(8:35/11/50)太郎平小屋(11:55/12:10)薬師峠キャンプ場(12:30/14:25)薬師岳(14:40/16:05)キャンプ場
2.キャンプ場(6:35/10:40)折立


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