
船形山の紹介と沢登りについて
東北の山にあって、船形山は最も東北らしい山と言えるかもしれない。標高は1,500mたらずで、これといった特長はないが、山懐は深く、大小の沢と山腹は豊かなブナの森で覆われている。(「みちのく120山 東北の登山紀行とガイド」福島キャノン山の会より)
船形山は宮城県と山形県の両県にまたがり、奥羽脊梁山脈の中央に噴出した火山(現在は休火山)で那須火山帯に属します。宮城県側から見ると、船を伏せた形に見えることから船形山の呼び名がつけられたそうですが、山形側では御所山と呼んでいるそうです。
「これといった特長がない」ために、あまり目立ちませんが、「日本登山大系1 北海道・東北の山」(白水社)では一章を丸々船形連峰に費やしています。
(船形連峰は)奥羽脊梁として南北に連なる山脈と、東西に派生する長大な山稜とが交叉しており、山の高さに似合わぬ懐の深さを有している。
鳴瀬川、大滝川、保野川、荒川、大倉川、泥沢川、野川、丹生川と数えられる水系は船形連峰の魅力で、技術的に難しい沢はほとんどないが、どの沢も入谷者は少なく、沢中で他のパーティーと出会うことはまずない。(中略)
そして、この山域の魅力を決定的にしているのが、主脈を西にはずれてはいるが、黒伏山南壁の存在であろう。
今回は船形山の南面に位置する、鬼口沢から大倉川本流を下り、笹木沢を遡行する周回コースをご紹介します。豊かな森とその合間をぬって流れる滝の数々は見所がたくさんあって、ほとんど直登することができます。魚影の濃さも特筆ものでした。懸垂下降をしたり、滝の登攀もあるので、ロープや確保技術が必要です。
下の軌跡ログは、幕営地から2日目途中までログがきれています。実際は時計回りに周回しています。
■宮城・船形山 大倉川鬼口沢下降〜笹木沢
1.観音寺コース登山口(6:30/8:05)定義分岐点(8:15/9:10)鬼口沢(9:15/14:30)笹木沢出合(14:30/15:30)テン場
2.テン場(6:30/8:55)鎧滝(8:55/12:45)登山道(13:00/14:00)登山口
関空から仙台へ 仙台からは車で1時間半のアプローチ

大阪から仙台へは関空からピーチに乗りました。飛行機でのアプローチは、早めに予約すると格安なのですが、天候悪化による日程変更、さらに日程変更により運賃が高くなったりしないかなど心配事が増えます(笑)。こんなことなら、あまり時間は変わらないので新幹線でもよかったかなと思ったり。
今回の山行はもともと、秋田県森吉山の桃洞(とうど)沢へ行こうと計画していたのですが、大雨により林道が通行不能となってアプローチできなくなり、急遽浮上した代替案なのでした。船形山は仙台から車で1時間半ということもあり、友人の家に泊まって午前4時半に出発しました。国道48号線を山形方面へ車を進め、「黒伏高原スノーパークジャングル・ジャングル」の近くに来た時に目に飛び込んできたのが、黒伏山南壁です。「すげ〜」やわらなか印象しかない東北の山に、こんな厳つい岩壁があるなんて、しばし見とれてしまいました。日本登山大系の記述通り黒伏山南壁が「この山域の魅力を決定的にしている」は間違いないと思いました。

スキー場からさらに進み、柳沢小屋を経て、林道を奥まで進むと観音寺コース登山口の駐車場に到着しました。

最初から沢登りの装備に身を包み、緩やかなブナの森を左上して行きます。きれいなブナの森です。「あ〜、東北の山に来たんだなあ」と思います。

35分ほどで粟畑という地点に到着しました。

粟畑からは平坦な道となります。あ〜気持ちがいい。

「最上カゴ」でしょうか。ガツガツの岩山が見えました。

やがて定義分岐点跡に着きました。ここから廃道と書かれている谷へ降りていくのですが…
定義分岐点跡から鬼口沢下降へ

本当に廃道で道らしいものはありません。沢潟を辿りいったん下って、GPSを見ながら左にを意識しながら藪を漕いで、最後はクライムダウンで沢に降り立つことができました。岩壁記号の上流を目指すと良いです。

そこが大倉沢本流の源頭部にあたる鬼口沢でした。鬼口沢は白い岩が特徴的で、小滝もどんどんクライムダウンで降りていくのですが、やがて滝に阻まれました。

鬼口沢下降はV字谷やスラブ滝など見所多し
15mの懸垂下降です。最後は少し空中気味でした。

そこを過ぎるとV字谷となりました。明るくひらけています。グリーン色をした土砂があって何だろうと思っていたのですが、これはグリーンタフと呼ばれるこの地域独特の岩質らしいです。左岸の仙台沢や伊達沢からはスラブ状の大滝となって水が滴り落ちています。

突如として現れたのが構造物の残骸です。後から調べていてわかったのですが、「三角あぶらげ」で有名な定義如来から大倉川沿いに定義森林鉄道というインクラインがかつてあったそうです。昭和13年から建設が始まり、全線が廃線となったのは1963年(もしくは1960年)だったようです。インターネットを見ていますと、廃線跡を訪ねるページがいくつも出てきました。

笹木沢の出合までは長かった…さらになんだかこの辺りはぬめりがひどくて、何度も滑って転んでしまいました。手をついたときに、右手中指を突き指してしまいました。

やがてゴルジュとなって、その先は切れ落ちています。左岸に移ってひと登りすると捨て縄がいくつかありました。懸垂下降ポイントです。上からみると滝は大きな深い釜を持っていて、「これが手持ちの30mロープで届くんだろうか?」と不安になるスケール感でした。友人が先に降ります。

ロープはちょうど地面についたところでした。まさにギリギリ。


懸垂下降が終わって、ゴルジュを抜けるとようやく笹木沢の出会いに到達しました。14時半。笹木沢はこれまでの大倉沢本流に比べると、やはりこじんまりした印象です。
笹木沢の小滝とナメを快適に遡行する

しかし、そこからの小滝の連続の中身の濃いこと。そのどれもが直登していくことができます。

また周りの森林もとても明るくきれいです。

おまけに小滝の合間には、ナメも配置されていて、言うことなしの渓谷美です。

たまに倒木が沢をふさぎますが、通るのに苦労するほどではありません。逆にこの日の焚き火が楽しみになりました。

笹木沢を1時間ほど遡行して、テン場探しにやや焦りが出はじめたころ、右岸の1mほど上がったところに焚き火跡がありました。多分いろんな記述に出てくるテン場で間違いないでしょう。

さっそく釣りをして友人がイワナを1匹釣りました。山菜のミズもとって湯がくことにします。
この日は尾西のチキンライスに、麻婆豆腐も作りましたので、お腹いっぱいになりました。

2日目はロープ確保、荷揚げで滝を突破

2日目はカップ麺を食べて6時半ごろ出発。昨日と同じく滝を直登していくのですが、昨日よりは難しくて、ロープで確保する滝も出てきました。

下の滝は真ん中がツルッとしています。
笹木沢全般に言えるのですが、残置ピンが一切ありません。ランニングビレーをとるとすると立木くらいしかないのです。ですので下の写真でもいったん左上してブッシュでビレーをとって落ち口へ向かいました。

さらにこの滝では右壁の細かいスタンスを拾って落ち口へ。ここもノーピンです。

滝を登って前方を見上げると大きな滝が現れました。鎧滝です。中段まで上がってからロープで確保します。左側の乾いたところを登れば快適なのですが、一番上段がなめっていて少し嫌らしい。ロープを出して正解でした。


そこから先は笹木沢も流石に大人しくなって小滝とナメを続けました。だいぶ源流だというのに、まだ人の気配に驚いた魚影がスィーっと岩の下に逃げ込みます。よほど魚影の濃い沢なんだなあと。

テンカラで毛針を落とすと私にもイワナが釣れました。まだまだ行動するので、その場でリリースです。



沢は源頭部に近づくと蛇行を繰り返すようになり、なかなか高度を稼いでくれません。GPSを確認するともうすぐ上に道があるようなので、最後は笹薮を10分ほどこいで登山道に上がることができました。沢の装備をここで解除しました。

この後は粟畑をへて駐車場へ。14時ごろでした。作並温泉の大江戸温泉で日帰り湯をして仙台空港から帰路につきました。

昔は東北の沢というと、まず飯豊や朝日の大きな谷が思い浮かび、ゴルジュの突破や雪渓の処理など、安易には取り付けないとなります。そうなると八幡平の葛根田川くらいしか情報がなかったのですが、去年行った二口山塊の大行沢はとてもよかったし、今回の笹木沢もとても良い内容の沢でした。船形連峰という私にとっての未知の山域にも足を踏み入れることができて、とても充実した山行となりました。
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