10月の安達太良山 紅葉に彩られた「智恵子」の山 公共交通日帰り


五葉松平あたりからの頂上稜線
五葉松平あたりからの頂上稜線 左のチョボが最高点の安達太良山だ

安達太良山(あだたらやま)と言えば詩人の高村光太郎の妻、智恵子がボソッと言った次の言葉でしょう。

智恵子は東京には空が無いといふ。
ほんとの空が見たいといふ。
・・・・・・・・・・・・
智恵子は遠くを見ながら言ふ。
阿多多羅山の上に
毎日出てゐる青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。

深田久弥は岳温泉から勢至平を経てくろがね小屋に1泊し、翌日矢筈森ををへて頂上に登り、下山は樹林帯の中を下り保成峠に出て、岩代熱海温泉へ出ています。山へ行く前に深田氏は高村夫妻が安達太良山を眺めたという丘の上に立って、安達太良山を望見しています。ロマンチックな話です。

ここでは公共交通を使い、日帰りで登るコースを紹介します。紅葉の時期なら赤く彩られた山肌と黒い岩壁のコントラストが最高に美しい絶景を目にすることができます。
JR二本松駅から臨時バスに乗って奥岳登山口へ行き、勢至平、くろがね小屋、峰の辻を経て頂上へ。頂上からはロープウェイ駅方面へ下山し、そのまま奥岳登山口に戻る周回コースです。
新緑と紅葉の時期だけに臨時バスが出ます。ここ要注意です。また、帰りのバス時間を考えてロープウェイに乗って下山するかどうか決めなければなりません。

コースタイムは奥岳登山口からくろがね小屋まで2時間40分、くろがね小屋から頂上まで1時間、頂上からゴンドラ山頂駅まで45分(山と渓谷社ガイドブックより)の計4時間25分。さらに奥岳登山口までは実歩行時間45分です。下の地図の軌跡では、反時計回りに歩いています。

■安達太良山 (2022/10/8)実歩行タイム
奥岳登山口(9:05/11:35)安達太良山(11:55/13:45)奥岳登山口

奥岳登山口から勢至平へ 紅葉と黒い岩壁のコントラスト

岩木山岩手山に続き、3週連続の東北。体力、気力的にもちょっとしんどい。お財布的にも…。ということで南東北の福島の安達太良山にした次第です。さて新幹線で郡山下車、東北本線に乗り換えて二本松まで。この時期は奥岳登山口まで臨時バスが出ています。バスの列に並ぶのが一瞬遅れ、立ち客となりました(泣)

奥岳登山口はあだたら山ロープウェイがあるところです。バスの乗客はほとんどがロープウェイ組でした。スキー場の右手の林道から登山道に入って行きます。

奥岳登山口
奥岳登山口 左はロープウェイ、まっすぐが登山道

やがて五葉松平経由安達太良山への道を分けて、勢至平を目指します。

緑の中の道だ
緑の中の道だ

馬車道という広い道もありますが、旧道を選んでショートカットを目論みます。しかしこの道が粘土質の水たまりがいっぱいあるようなぬかるんだ道で、案の定転んでしまいました。いきなりドロドロだぁ〜。あとで時間的にはあまり変わらないと聞きました。しょんぼり。

勢至平に着くと平坦な道が続きます。やがて鉄山の岸壁と紅葉が見えてきました。やや曇っているのが残念ですが、それでもそれが素晴らしい紅葉とわかります。何枚も写真を撮ってしまいました。

平坦な道が続く
平坦な道が続く
紅葉だ!
紅葉だ!
くろがね小屋が見えてきた
くろがね小屋が見えてきた

くろがね小屋から頂上へ

【追記】私が行った2022年10月はくろがね小屋が営業していました。くろがね小屋は1963年に営業を開始し、老朽化のため2023年に閉館しました。2025年に完成予定でしたが、3年程度遅れる見通しとのことです。

くろがね小屋は温泉に入ることができ、とても人気がある小屋です。予約も大変だと聞いたことがあります。

くろがね小屋では大勢の人に混じり、女性をリポーターにした撮影スタッフがいました。いつか放映されるのでしょうね。どこの局だろう?

くろがね小屋前 コロナ禍のためみんなマスクしている
くろがね小屋前 コロナ禍のためみんなマスクしている

源泉への道は立ち入り禁止です。この辺りは硫黄の匂いが強くして、ちょっと危険な気がします。

温泉源は立ち入り禁止
温泉源は立ち入り禁止

さて私は「峰の辻」目指してザレた登山道を登ります。

峰の辻を目指す
峰の辻を目指す

その手前から安達太良の「乳首」がちらっと見えました。

山頂の「乳首」が見えた
山頂の「乳首」が見えた

でもそれは一瞬ですぐにガスに巻かれて見えなくなりました。ガスの中を登るにつれて霧雨のような細かい雨が降ってきました。

峰の辻に着いた
峰の辻に着いた

雨粒が勢いを増してきたので、我慢ができなくなって雨具を装着します。

風が強くなってきた
風が強くなってきた

沼ノ平の爆裂口を見るのが楽しみだったのですが、ガスで全く展望は利かず、風も吹きまくって寒い。さっさと頂上を目指すことにします。

山頂がガスの中に浮かび上がる
山頂がガスの中に浮かび上がる

安達太良山の山頂 多くの人で混雑は覚悟

すぐに頂上直下に着きましたが、さすが日本百名山だけあって大勢の人がいます。100人は余裕でいたのではないでしょうか?

山頂直下はすごい人だ
山頂直下はすごい人だ

「乳首」に上がるには一方通行の道があってちょっとした岩場を登ればすぐです。時折下の方が見える時もありました。ぱっぱと写真をとって下山に取り掛かることにしました。

安達太良山の山頂標識
安達太良山の山頂標識
一瞬の青空に歓声が上がった
一瞬の青空に歓声が上がった

下山はロープウェイ山頂駅方面 奥岳登山口まで

下山はロープウェーの山頂駅を目指しますが、思ったより時間に余裕があるので、そのまま登山口まで徒歩で下山することにしました。

ゴンドラ山頂駅へ
ゴンドラ山頂駅へ

上りの渋滞の列ができています。クラブ〇〇〇ズムのツアー客です。すごい数です。ガイドさんも大変だなあと思います。こちらも思うように進めません。まあ我慢するしかないですね。

五葉松平あたりからの頂上稜線
五葉松平あたりからの頂上稜線

薬師岳の展望台に着く頃には、なんと山頂がバッチリ見えました。上の写真の一番左が安達太良山、別名乳首山です。ガスはどこへ…。まあいいや、それにしても紅葉がきれいだ。青空の下であればもっと映えるのだろうなあ。

帰り道で見つけた真っ赤に染まった葉っぱ

この展望台には「この上の空がほんとの空です」との標識があります。智恵子だけでなく、全ての人が「ほんとの空」を求める気持ちがあるのでしょうか。

この上の空がほんとの空です
この上の空がほんとの空です
あだたらスキー場のゲレンデを下る
あだたらスキー場のゲレンデを下る

下山後は奥岳の湯で汗を流し、缶ビールを飲んで15時半のバスで帰路につきました。

後日談:「ほんとの空」に母親が喜び、今更ながら「智恵子抄」に魅了される

実家の母親に「安達太良山に行ってきた」と話すと「あー、ほんとの空、智恵子の…」と言って、顔がほころんだような気がしました。

「そういえば読んだことがなかったな」と思い、青空文庫に「智恵子抄」を探しました。
読み始めると止まらなくなりました。こんな女性がいるのかと思うほど、純潔さを持って、子供のようでいて、しかし激しさを胸に秘め、夫の芸術作品の最大の理解者だった智恵子。
しかしやがて精神が侵されていきました。「智恵子抄」は高村光太郎がその時々の愛おしい想いを包み隠さず書き留めていたものです。
「東京には空が無いといふ、ほんとの空が見たいといふ。」という詩「あどけない話」だけではありませんでした。「レモン哀歌」「梅酒」「荒涼たる帰宅」。
今回全編読んでよかったと思いました。登山の前でも後でも良いと思います。お勧めします。

岩木山では太宰治、岩手山では石川啄木や宮沢賢治、そして安達太良山では「智恵子抄」と、作家にとって山は作品性と密接に関わる気がしますね。そしてどれもが印象的で素晴らしい山です。私も大好きになりました。


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